不妊症への鍼灸治療
世界的に増加傾向で10-15%の方がお悩みの「不妊症」
現在は不妊専門の鍼灸院もあり、病院での治療に鍼灸を併用される方も増えております。
鍼灸は骨盤腔内の血液循環を改善して受精卵の着床率向上に期待が持てますが、卵子の質改善や器質的疾患にはあまり効果を期待出来ないため、すべての方に有効であるといえません。
今回はそんな不妊症への鍼灸治療について綴らせていただきました。
そもそも不妊とは
WHO(世界保健機関)の定義では「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(1年)妊娠しないもの」とされております。
日本では、
- 6か月以内に65%
- 1年で80%
- 2年で90%
- 3年で93%
の確率で妊娠にいたると考えられております。
不妊症の原因
妊娠適齢期において、
- 男性側に問題があるケースが約24%
- 女性側に問題があるケースが41%
- 両性に問題があるケースが24%
- 原因不明な場合が11%
といった男女双方の原因が考えられます。
男性不妊の原因
造精機能障害、精路通過障害、性機能障害、その他に大きく分けられます。
造精機能障害
精子の数が少ない(無い)、精子の運動性が悪いといった状態です。
男性不妊の原因として最も多く、病院で精液分析をおこなうことで判明します。
精路通過障害
作られた精子がペニス先端まで通るための道中で詰まっていたり、射精をしても精子が排出できていない状態です。
性機能障害
前立腺炎症など副性器の障害によって精子が影響を受ける場合や射精ができない状態です。
その他
加齢に伴う活性酸素の増加やテストステロン(男性ホルモン)値の低下などが関与しています。
女性不妊の原因
内分泌・排卵、卵管、子宮、その他の原因に分けられます。
内分泌・排卵系の問題
甲状腺など女性ホルモンを出す仕組みに影響を与える病気やホルモンバランス異常(多嚢胞性卵巣症候群)が挙げられます。
その他、環境の変化に伴う精神的ストレスや短期間な大幅ダイエットも月経不順をきたし不妊症の原因となります。
卵管系の問題
卵管は精子が卵子と出会い、受精した卵子が再び子宮に戻るための道です。
卵管留水腫や卵管間質部の閉塞などにより卵管が詰まってしまう場合があります。
子宮の問題
女性不妊症の原因で最も多く、子宮筋腫や子宮内膜症は不妊症にも関係します。
子宮筋腫は着床を妨げるだけでなく、精子が卵子へ到達するのを妨げて妊娠しにくくなることもあります。
その他
原因不明:不妊症の1/3は原因不明といわれています。
検査と治療方法
問診や不妊検査をおこない、原因を確認することが重要になります。
一般的な検査
経膣超音波検査、子宮卵管造影検査、血液検査、男性の場合は精液検査をおこないます。
経膣超音波検査
超音波プローブを挿入して、子宮筋腫や子宮内膜症などの有無を確認します。
子宮卵管造影検査
子宮口から子宮内へ造影剤を注入し、X線で子宮の形や卵管の閉塞がないか確認します。
血液検査
プロゲステロン、プロラクチンといったホルモン検査や糖尿病などの全身疾患に関係する数値を確認します。
精液検査
精液の量や運動率、精子の形態などを確認します。
治療方法
原因に応じてタイミング療法、人工授精、体外受精といった妊娠を補助する治療をおこないます。
タイミング療法
基礎体温や血中・尿中ホルモン数値などを参考に排卵日を予測し、最も妊娠しやすいタイミングに性交渉をおこなう方法です。
人工授精法
精液中から運動能の良好な精子を選び、不要な赤血球や白血球を取り除いて子宮内に注入する方法です。
体外受精
卵巣から取り出した卵子を培養液中で精子と受精させ、受精卵を子宮に戻して着床させる方法です。
精子の数や運動率が低い場合には、精子を極細ピペットで卵子の中へ直接注入する顕微授精法がおこなわれるケースもあります。
鍼灸で効果を期待できるもの
鍼灸では血行改善やストレス緩和により不妊症のサポートをおこないます。
血行改善
女性の骨盤内血流を促進する事で子宮内膜の発育を促し、受精卵の着床しやすい環境を整えます。
受精卵は子宮内で血流量の多い部分に着床する特徴があるため、骨盤内の環境を整えることがとても大切になります。
男性の場合は、EDの回復や精子の量・運動率改善に効果を期待できます。
実際に、仙骨(腰部周囲)に鍼を施しパルス通電したところ、精子運動能の向上がみられたなどの結果も報告されております。
ストレス緩和
不妊治療の長期化はホルモンバランスの乱れにつながります。
そのような方には、
- 手足が冷えている(浮腫んでいる)
- よく眠れない
- 普段より肩凝りが激しい
などの諸症状も多く見受けられます。
このような症状を含め、お身体全体の調子を改善する事でストレスの減少や精神的な安定へ繋がります。
医薬品等の副作用軽減
服用されている医薬品によっては、胃腸の消化吸収力の低下や手足の冷えを誘発してしまうケースがあります。
鍼灸はお身体本来の消化や吸収する力を整えるため、飲み合わせの心配や副作用を気にすることなく取り組むことできます。
鍼灸で効果を期待できないもの
卵子自体の問題や器質的疾患に対しては、あまり効果を期待できません。
子宮筋腫の場合には手術や超音波治療、別の原因に関してもホルモン療法を優先しておこなうなど、病院での治療が最優先のケースが多くあります。
不妊治療をお考えの場合には
問診や不妊検査をおこない、原因を確認して治療することが重要になります。
不妊治療に鍼灸併用は副作用の心配も少なく、骨盤内の血流改善に役立つためおすすめです。
しかし、卵子自体の問題や器質的疾患に対しては、あまり効果を期待できないため、まずは婦人科の受診をご検討ください。
この記事の著者
-
『白金のかかりつけ鍼灸院』を目指し、日々鍼灸臨床に励んでおります。
鍼灸は様々な症状の改善へ効果が期待できる一方、効果の期待出来ないものや病院での治療を優先した方が良いケースもございます。
当室では鍼灸適応を判別し、ご利用者様に最善の治療方法をご提案させていただきます。
この著者の最新記事一覧
- 2024年2月24日鍼灸と整体はどちらに行けば良いか
- 2024年2月9日鍼治療でなぜ内出血するのか?
- 2024年1月27日男性の更年期障害への対処と鍼灸治療の効果
- 2023年12月3日鍼灸の健康保険適用について
当室で施術対象の症状・疾患に関する記事
神経系 | 肋間神経痛・手足の痺れ・坐骨神経痛・頭痛・自律神経失調症・顔面神経麻痺 |
---|---|
運動器系 | 肩凝り・四十肩・腰痛・股関節痛・膝痛・腓骨筋腱炎・足底腱膜炎・ドケルバン症候群・ゴルフ肘・上腕二頭筋長頭腱炎・骨折、打撲、捻挫・脳卒中後遺症・寝違え・テニス肘・後脛骨筋腱炎・シンスプリント |
消化器系 | 下痢・便秘・胃炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾 |
循環器系 | 冷え性・高血圧・低血圧・心臓神経症・閉塞性動脈硬化症 |
感覚器系 | 眼精疲労・突発性難聴・耳鳴り・メニエール病・ものもらい・結膜炎・花粉症・めまい |
呼吸器系 | 風邪症候群・気管支喘息 |
婦人科系 | 不妊症・逆子・月経痛・乳腺炎・女性更年期障害 |
代謝内分泌系 | 糖尿病・痛風・脚気 |
泌尿生殖器系 | 前立腺肥大症・膀胱炎・陰萎(ED)・過活動膀胱・男性更年期障害 |
その他 | 全身倦怠感・脱毛症・不眠症・むずむず脚症候群・不安神経症・関節リウマチ・アトピー性皮膚炎 |
アクセス
東京都港区白金3-9-16 マロン白金3A
東京メトロ
白金高輪駅(4番出口)より 徒歩6分
白金台駅(2番出口)より 徒歩9分
都営バス
渋谷-新橋(赤羽橋)「四の橋」より徒歩3分
渋谷-田町「三光坂下」より徒歩3分