慢性疼痛への対処と鍼灸治療の効果
原因不明の長引く痛み「慢性疼痛(まんせいとうつう)」
慢性疼痛は病気や怪我が原因の場合もあれば、原因がわからずに痛み続ける場合もあります。
痛みの原因が不明で、鍼灸を試していない方は一度鍼灸をご検討ください。
今回は慢性疼痛と鍼灸の効果について綴らせていただきました。
そもそも痛みとは?
からだの不調を知らせる機能です。
人は痛みが現れるからこそ病院に行ったり、からだの不調を認識できます。
そんな不調を知らせる痛みにはトラブルが発生したことを伝える痛み「一時痛」と、どのくらいの被害(損傷)があるのかを伝える痛み「二時痛」の2種類あり、伝え方や痛みの種類が異なります。
包丁で指を切った時のチクッとした痛みが一時痛、少し間を空けてジンジンと痛むのが二時痛です。
早い痛み、一時痛
強い刺激にだけ反応するセンサー(高閾値機械受容器)からの情報を脳(感覚野)へと伝えています。
からだの「何処」が「いつ」痛み刺激を受けたのか判断しています。
遅い痛み、二時痛
切った、火傷した、溶けた、さまざまな刺激に反応するセンサー(ポリモーダル受容器)の情報を脳へ伝えています。
二時痛のセンサー(ポリモーダル受容器)はセンサーとしての役割だけでなく、神経ペプチドという物質を産生して放出することで、血管を広げて治す働きの活性化もしています。
なぜ慢性痛が起こるのか?
急性痛は傷や病気に伴う痛みのため、原因となる傷や病気が治れば痛みも落ち着きます。
しかし痛みが持続すると周りの神経にも興奮が広がり、興奮状態が続いてしまいます。
強い(持続する)痛みは、痛みセンサーを敏感にしたり、痛みを伝える通路(神経)を混線することで、本来ならば痛いと思わない軽い刺激、寒さや気圧、感情の昂りにも痛みを感じるようになります。
センサーや神経の過剰な痛み信号は、脳の反応も過敏にさせる(可塑性を高くする)ため、メンタル的な原因で現れる「心因性の疼痛」や「幻肢痛」が現れる原因にもなります。
このような慢性痛には、痛みの経路を遮断するモルヒネ系(オピオイド)よりも抗うつ薬などが有効の場合が多く存在します。
治療・対処方法
外傷であれば整形外科といった原因にアプローチする科の受診からご検討ください。
慢性痛の中には急性痛の原因をかばって痛みを出しているものもあり、さまざまな原因で起こります。
外科的療法を行う必要があれば整形外科、心理療法が効果的な場合心療内科、病態によってはペインクリニックで痛みをコントロールするケースも考えられ、原因に適した対処が大切になります。
また、治療方法と効果が噛み合わないこともあります。
- 鎮痛薬は患部の炎症を抑える働きのため、神経の問題や混線の改善にはあまり期待できない
- 神経ブロックは痛みの通路をブロックする療法のため、脳の興奮の場合に対処できない
などの場合、他の診療科を薦められることもあり、治療内容を理解しながら取り組むことが重要です。
原因がわからない場合
筋肉の痛みは検討(検査)されましたでしょうか?
慢性痛の多くに、腰痛や手足の痛みといった運動器疾患があります。
運動器疾患は骨格、関節や靭帯、筋や神経に問題がないかを考えていきますが、整形外科の分野では骨と関節を専門とすることが多い傾向があり、筋肉の状態やアプローチしていく方法を試されていない方が大勢います。
筋肉は痛みが続くと縮んだままになり、硬く動かしづらくなることで「神経を圧迫して生じる神経痛」や「筋筋膜性疼痛症候群(MPS)」が起こります。
このような筋肉由来の痛みには鍼灸が効果的です。
鍼灸の効果
鍼灸は筋筋膜性疼痛症候群や神経圧迫による痛みの改善に加え、鍼灸独自の鎮痛効果が期待できます。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)とは、肩こり腰痛のような筋肉の凝り過ぎによる痛みのことを指し、神経圧迫の痛みは坐骨神経痛(梨状筋症候群)のような筋肉の緊張で神経を圧迫する痛みをいいます。
『坐骨神経痛の詳細はこちら』
鍼鎮痛の仕組み
鍼灸刺激は、
- 痛みを伝えている神経(脊髄後角や三叉神経脊髄路角尾側亜核の広作動域ニューロン)の活動を抑制する
- 脳内麻薬と呼ばれるβエンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィンの分泌を促す
- 炎症物質サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の放出を減少させる
といった働きによって、からだに備わる痛みを抑制する力(内因性鎮痛システム)を引き出す効果が期待できます。
そのため「原因不明の方」や「筋肉の状態を確認していない方」に鍼灸はオススメです。
原因不明の慢性的な痛みには
原因のわからないケースや脳の神経回路(可塑性)問題のように完治が難しいケースもあります。
しかし原因へ適切に対処することで「このときは痛くなった」などQOL向上を目指すことは可能です。
原因不明の痛みや筋肉由来の痛みには鍼灸も効果的ですので是非ご検討ください。
この記事の著者

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「白金のかかりつけ鍼灸師」を目指し、日々鍼灸に励んでおります。
鍼灸は多くの症状改善に効果が期待できる一方で、効果の期待出来ないものや病院での治療を優先する場合もあります。
当室では鍼灸適応を判別し、ご利用者様に最善の治療方法をご提案させていただきます。
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鍼灸師のコメント
幻肢痛とは
手術や事故で手足を切断した際に、切断側(ないはず)の手足が痛む病気です。
自然に治ることもありますが、痛みが継続してしまうこともあります。
fMRI(機能的磁気共鳴装置)で脳の異常興奮が観測されており、「切断時の痛みが継続することで脳が痛みを記憶している」と考えられ、切断時(早期)から鎮痛を施しておくことで出現率が低くできます。