鬱病(大うつ病)への対処と鍼灸治療の効果

生涯で男性の10%、女性の20%がかかる「うつ病」

うつ病は心の病気といわれますが、精神的に弱いからではなく、脳内のトラブルが深く関わっており、生活習慣の見直しや鍼灸で脳や神経系の働きを高まることが改善につながります

今回はそんな鬱病について綴らせていただきました。

うつ病とは

鬱病は「大うつ病」という病名を持ち、抑うつ気分が主症状の気分障害に分類される病気です。

全国で120万人以上の患者がいるとされ、その7割は医療機関を受診していません。

精神的な症状が代表的なため心の病気として認識されがちですが、脳から分泌される幸せホルモン「セロトニン」の分泌低下やストレスホルモンの過剰により意欲低下(行動低下)を招いているとの説もあり、精神的に弱いからではなく、脳内トラブルの病気です。

また、うつ病の治療は寛解と増悪を繰り返して回復していく特徴を持ち、放置することで悪化するため、治療継続中も注意が必要になります。

症状

抑うつ気分、興味喜びの喪失、思考停止、といった精神的な症状不眠や食欲不振といった身体的な症状が代表的です。

誰しも感じる憂鬱気分は悩みを解消するとなくなりますが、うつ病は「朝方に酷く夕方から夜にかけて良くなる」、「無気力感が1週間以上続く」といった特徴があります。

うつ病には、抑うつ気分の続く「鬱病」と躁状態と鬱を繰り返す「躁鬱病」があり、治療法も異なります。

また、不安神経症や心身症といった同じ症状を示す病気もあるため、自己判断ではなく精神科や心療内科の受診をおすすめします。

不安神経症とは

ストレスや精神的ショックにより、不安や緊張感、動悸や発汗といった症状が現れて日常生活に支障をきたす病気です。

「神経質でこだわりの強い人がなりやすい」という鬱病になりやすい人と特徴が重なるため、不安神経症の方が鬱病を併発しやすい傾向もみられます。

『不安神経症の詳細はこちら

心身症とは

心理的ストレスが身体に現れる病気です

心身症状を示す「仮面うつ」と間違えられやすいですが、心身症は検査をすれば身体に異常がみられるため、うつ病とは異なります。

心身症の治療は身体の治療と同時に精神的な治療が大切になります。

原因

遺伝、性格、社会環境、さまざまな要因が重なって起こります

過度なストレスや長期的なストレスが引き金となるため、真面目、几帳面、責任感が強い人は特に注意が必要です。

幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」の減少やストレス対抗ホルモン「コルチゾル」の増加が心身のバランスを乱していると考えられています。

人はストレスを感じると攻撃行動や恐怖反応、情動記憶といった活動を司る脳の「扁桃体」という部分の活動が活発になり、抗ストレスホルモン「コルチゾル」が分泌され、身体をストレスへ対応できる状態にします。

しかし、コルチゾルが過剰に分泌され続けると、脳神経細胞を修復・活性化させる働きのある「脳由来神経栄養因子(BDNF)」が減り、脳の神経細胞が萎縮するため、意欲や行動の低下が起こります。

その他、病気の気分障害から鬱病になるケースや薬の作用でも鬱病は起こります。

病気の気分障害

脳血管障害やパーキンソン病といった脳の器質性疾患、糖尿病や甲状腺ホルモンの異常から気分障害、睡眠障害は起こります。

そのため、「気分の落ち込み」など持病の症状にないか確認することも大切です。

薬による作用

降圧薬(β遮断薬)、インターフェロン(C型肝炎治療薬)、ステロイドは抑うつ症状が出やすいといわれています。

もし服用中に「気分の落ち込み」や「不眠」症状があるようでしたら、主治医にご相談されることをおすすめします。

治療方法

休養と薬物療法が中心になり、慢性的な症状の場合には精神療法を併用するケースもあります。

まずは休養を徹底して十分な睡眠時間の確保が大切です。

回復目安は3〜6ヶ月、休養期間には個人差がありますが約2ヶ月が一般的で、回復してからも服薬は半年〜1年間継続する必要があります。

うつ病は再発しやすいため自己判断で薬を辞めず、再発を防ぐことも重要です。

薬物療法

心の病気の治療に使われる薬を総称して「向精神薬」といいます。

向精神薬には抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬、気分安定剤があり、それぞれを併用して抗うつ薬の効果を高めるケースもあります。

しかし、躁うつ病では「抗うつ剤」で効果があまりなく、「躁転」という高度躁状態や「ラピッドサイクラー」という急速交代型に繋がり安定した効果を出せないなど、お身体の状態によって薬の効果が大きく変わります。

そのため、薬の服用は必ず医師の指導のもと行ってください。

抗うつ薬

副交感神経に関与するアセチルコリン抑制やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害する薬でSSRIやSNRIが有名です。

身体を活動時の状態にするため、抑うつ気分を抑えられる反面、休息時に活発になる消化管活動が滞り、便秘や口渇を感じることがあります。

抗不安薬

不安感を抑える薬でベンゾジアゼピン系が主流です。

抗うつ薬より効き目が早く、早期に不安感を抑えてくれる反面、倦怠感や眠気、集中力低下などの副作用があります。

抗不安薬は効果の強いもの〜弱いもの、薬の効いている時間が短いもの〜長いものがあり、薬によって依存性があるため、医師の指示で減薬していく必要があります。

精神療法

心理的なアプローチをする治療方法で、認知行動療法や対人関係療法が代表的です。

受容、傾聴、共感により問題を冷静に捉え直すことで解決を図ります。

患者さんによっては薬よりも精神療法が効果的なこともあります。

瞑想やマインドフルネスも精神療法の1つに含まれます。

鍼灸師のコメント

薬が効かない場合には頭部に電極をつけて電流を流すことで脳神経の働きを通常に戻す「通電療法」などの他の治療方法もあります。

しかし、まずは

  • しっかりと休息を取る
  • 生活習慣を整える
  • 不要なストレスとは距離を置く

ことが重要です。

また、鍼灸の併用もおすすめできます。

鍼灸の効果

鍼灸刺激には自律神経を整え、幸せホルモン「セロトニン」の分泌を促進する作用があり、脳や神経系の働きが高まることで、睡眠や気分障害が改善されます。

『自律神経に関する詳細はこちら

実際に、うつ病(MDD)の病理部位でもある左前頭葉と扁桃体で特異的な脳血流の変化が観察されたという報告や、うつ病と双極性障害の患者19名に鍼治療の前後と治療中の3ヶ月間の観察を行ったところ、鍼治療2ヶ月後にうつ病や不安の症状が大幅に軽減され、鍼治療終了後も効果が2ヶ月持続するといった報告もされており、鍼治療の可能性が示唆されております。

また、うつ病患者の3割以上の方が「抗うつ剤」だけで改善がみられないことも明らかになっており、セロトニンに関わる神経系を刺激して活性化させる可能性のある鍼灸は標準治療との併用に期待されています。

もしも気分が塞ぎ込んでしまったら

抑うつ気分が長く続く、午前中が特に辛く夕方にかけて楽になる場合には心療内科の受診をご検討ください。

抑うつ気分は「持病をお持ちの方」や「40.50代男性のテストステロン減少」によって起こる場合もありますので、持病の検査や特徴の見直しや男性更年期障害の可能性を考えることも大切です。

『男性更年期障害に関する詳細はこちら

お身体の状態を確認された後に、標準治療に併せて鍼灸を取り入れられることをおすすめいたします。

この記事の著者

中島 裕(Nakajima Yutaka)
中島 裕(Nakajima Yutaka)
『白金のかかりつけ鍼灸院』を目指し、日々鍼灸臨床に励んでおります。

鍼灸は様々な症状の改善へ効果が期待できる一方、効果の期待出来ないものや病院での治療を優先した方が良いケースもございます。

当室では鍼灸適応を判別し、ご利用者様に最善の治療方法をご提案させていただきます。

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